エッセイは捏造される(30首)

エッセイは捏造される (30)

 

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救われないビデオゲームの光のなかへ攫ってくれよ 感傷

 

蛍光灯の点滅だけがこの世界で確かだ 不埒な予感

 

あらかじめ決められている結末に誰かはずっと怯えている ミラー

 

虹を見たとしても虹彩は認識しない 視聴覚室 図書準備室

 

誰の代わりもいないのがこの世でいちばん残酷な サードパーソンシューティング

 

春の鬱 再放送の名探偵が真犯人を指名するまで

 

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ウィズアウト 心まで狂って仕舞えば素敵だね ホワイトアウトする焦点

 

きっと多くのことを取り逃がした 三塁審が見ている隙に

 

素晴らしい気分で目覚めてもどこかでスイッチは押されて 

 

ルールの上では自由だからあなたは棺に写真機を持ち込んでもいい

 

言い終えたあとで反論を思いつく シャワールームに無造作に花

 

報せてね 鋭い夢の続きとか冴えない光のなかの子供を

 

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サッドヴァケーション 君は花束のなり損ない 酷く疎ましい

 

発狂を続けろ 写真は嘘をつく 言葉以外で心中しよう

 

僕の双極性を春に例えてたまには雨を諦め切れた

 

(ここで言う世界というのは日本のことです)絶唱する東京

 

勇気ある行動でしたと警官が言い終えるまでは多分よかった

 

手遅れとわかっていながら袖は涙を拭った never meant

 

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恋愛は(多分死語だしキモい感情)発音の良いweapons of mass destruction

 

触れたのは触れたかったから すべての弱さを薔薇の蕾は

 

不確かさを確かめたくて何度でも自傷においてあなたを使った

 

もう会えなくなった恋人に対して僕が割いてる熱意と時間

 

君と僕に仮想敵がいたころ青春はいちばんの盛り上がりを見せた

 

もし僕が人を殺せばこの歌は引用されるだろう 収束される数列に向けて

 

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ほら、エッセイは捏造される あなたが何回も生きたところで花になる花

 

わたしたちは使い果たした 檸檬を切り分ける想像のナイフ

 

もう君が失わなくていいようにカッターはしまう セカイ系のはつなつ

 

切なさや淋しさじゃないかしら こんな気持ちは 光りっぱなしの文庫本の<>

 

正当化すれば僕らは追いつける 逆走をかけて疾走感へ

 

萌える凍土に、くれた花束に、僕はもう引き返せないところまで来た

 

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